ジャニオタが手下沼に嵌った話

一度はてなっぽいタイトルを使ってみたかったのでやってみた。

10月は現場予定があまりなかったこともあり、ジャニオタとして一息ついて…ついていたらうっかり手下沼にはまった。わたしはもともと特別ディズニーが好きだったわけでもなんでもなく、例にもれず流行に乗っかってみただけのニワカである。でも、そのぐらいのミーハーなオタクのアンテナに引っかかる程度には「ヴィランズの手下」はこの秋ちょっとしたブームになっていた。

わたしはジャニオタなので、基本的にツイッターのオタク用アカウントはジャニオタの人をフォローしており、TLは常にジャニーズの話題で回っている。その中で、事の発端はこれだった。

「辰巳くん副業疑惑」

ジャニーズJr.、ふぉ~ゆ~の辰巳雄大くんのことである。ジャニーズは副業禁止なのでこれが本当ならずいぶん由々しき事態であるが、もうすこし詳しく言うと「舞浜で副業疑惑」だった。実際の辰巳くんは9月は梅田芸術劇場、10月は博多座で「Endress SHOCK」という舞台に毎日出演しており、舞浜、つまりディズニーリゾートにいるわけなんかない。要するに、ディズニーのキャストさんが辰巳くんに似てる!っていう話だった。なんともジャニオタ的なとっかかり。辰巳くんとそのキャストさんの画像が並べられて流れてくるのを見ると、どうやら顔の造形のみならずファンサービスの過剰さやキャラクターが似ているらしい。なるほどたしかに言われてみれば?

というわけで、手下とはなんぞやというのをグーグル先生に聞いてみたらすぐに出てきた。東京ディズニーシーハロウィーン期間限定ショーのようだ。ちなみに辰巳くんに似ているのは不思議の国のアリスのジャックハート。ファンサービスに富んだ人気者である。

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そして気にして眺めるようになってみれば、ジャニオタにはDオタを兼任している人は多く、手下の画像や動画、さらにはファンアートや二次創作がけっこうRTされていた。そう、SNSツールの恐ろしいのは自分から探しに行かなくても話題や情報が流れてくるところだ。

最新ツールの利用

ジャニーズは動画や写真の権利についてとてもうるさい。うるさいというか、ドラマや雑誌、公式のメディアに対してさえ解放していないほどの時代錯誤みのある事務所である。なのであんまりネットを活用して広めるというマーケティングの発想があまりなかったのだが、他のジャンルはもっといろんな広がり方をしているようだ。
海外のライブは個人が撮影したり動画をアップしたりするのは当然っていう文化もあるみたいで、ヨーロッパの美術館が写真撮影自由だったことに驚いたのを思い出した。日本の美術館や博物館は原則撮影禁止だからだ。
場所やジャンルが違えばマナーもルールも違う。女子アイドルのコンサートはリアルタイムで公式が実況動画を配信していたり、ファンの人も実況をつぶやくし、宝塚の入り待ち出待ちはジェンヌさんの写真を撮って流していたりする。そういえば、特撮のショーも以前は撮影自由だった。戦隊の素顔の戦士ショーは、スカイシアターではボウケンジャー以前は三脚を構えてがっつり撮影しているオタクもけっこう見かけた。今はもう会場も屋内のGロッソに変更されたし、完全に撮影禁止になっている。
ジャニーズでは撮影禁止、公演中の携帯スマホの使用禁止は公式からの通達だが、それに加えて公演終了時間まで内容をネタバレしてはならないという暗黙の了解がある。

で、ディズニーのショーというのは今でも基本的に撮影OKで、それを編集して動画をYoutTubeに上げるとかいう文化がしっかり確立されている。もちろんこれはショーが屋外で行われているという性質もあるんだろう。パーク内で撮影したら意図せず写りこんでしまうことは多々ある。それをいちいち禁止するのは不可能である。
気になってちょっと検索したら販売DVDかな?って疑うようなカメラ割の映像がたくさんあった。すごい。たしかにショーやパレードを何時間も前から場所取りして待って、本格的な一眼レフとか機材で撮影してるオタがいるのは知られていることだが、それを今は個人が配信してネットで気軽に見られる時代なのだ。いまさら2009年のハロウィンパレードとか2010年のミステリアスマスカレードとかに感動する。いまさらこのことに新鮮に驚いているジャニオタの時代遅れ感もやばい。

というわけで、撮影した動画をネットにアップするという文化自体はそれほど目新しいものではないようだが、それがスマートホンの普及に伴って誰でも簡単にできるようになった。特別な機材や本格的なカメラもいらない、編集技術もなくて大丈夫、手元のiphoneとアプリさえあればいい。そこにSNSだ。撮った動画を個人や仲間内できゃっきゃしてるだけではなく、ひょっとタグをつけてツイッターに載せる、あとは検索で見つけた人がRTボタンを押すだけで瞬く間に拡散する。わたしのように家でツイッターのTLを見ているだけの人にも届く。本来なら時間とお金をかけて現地に行かなければ見ることのできないショーの内容を労力なしで見られるのだ。このマーケティング力は驚異的なものだった。元々興味を持っていた人が意図的に探すのではなく、興味のない人の目にも触れるようにTLに流れてくる。ツイッターの拡散力については、ジャンル限らず影響の大きいもので、オタク市場の拡大に一役買っていると思う。企業のCMよりも、知っている人のおすすめや感想のほうが気になるものだ。あと、わたしみたいなミーハーなオタクは「流行っている」ということがなにより興味をそそる。日本人気質まるだし。流行には乗っかりたい。

需要ど真ん中のシチュエーション

もちろん流行には流行るだけの理由がある。広がるためのツールも時代をよく反映していると思ったけれど、コンテンツの中身も今のオタク需要にうまくマッチしているものだった。
ヴィランズの手下」というのはディズニーアニメ作品に登場する通称ディズニー・ヴィランズのキャラクターたち(こちらは以前からパークのショーなどにもガワで出演している)がハロウィンの期間に人間たち(パークのゲスト)をヴィランズの仲間入りをするよう誘う「リクルーティング」をするために遣わした「リクルーター」という設定のキャラクターである。人間を勧誘する目的のため、着ぐるみではなく人間の姿をしている。つまり衣装とお化粧を施したキャストということだ。元のキャラクターと設定は二次元アニメ派生だが、実際に演じているのは三次元の人間といういわゆる「2.5次元」のキャラクターである。
これが今、人気を博しているのは周知の通り。今の2.5次元ブームの火付け役、ミュージカル・テニスの王子様通称テニミュ(初演は2003年)以降、さまざまなマンガやゲームが「舞台化」「ミュージカル化」され、今では「2.5次元舞台」はすっかり一大ジャンルとなっている。最近だと、弱虫ペダルとか刀剣乱舞とか、人気漫画や人気ゲームが舞台化されたりしていて観劇をしてきたっていうレポを見かけたりしていた。ジャニオタにはそういう2.5次元や若手俳優を掛け持ちで追いかけている人もけっこういる。同じカテゴリにしていいかは微妙だが、最近では歌舞伎が「スーパー歌舞伎IIワンピース」として漫画原作を扱ったり、宝塚が戦国BASARAるろうに剣心を題材にして上演をしていたりして、「実写化」を映像ではなく「舞台」で行われるという興業が以前よりも人気を博して、というか元からそのジャンルに詳しいファン以外にも知名度が広まってきたという印象だ。
2.5次元舞台は役者本人を三次元的に好きなファンとキャラクターを二次元的に好きなファンの両方が存在する。Dオタにはダンサーさんのファンがついているそうなので元からそのキャストのファンというタイプもいるだろうし、キャラクターを好きだという人もいるだろうし、両方混ざる人もいるんだろう。

 

需要を満たしているのは設定だけではない。手下のキャラクターが現れるセイリングブッフェでは、レストラン内でキャストと喋ったり写真を撮ったりできる。これは、完全に、“アイドル”だ。会いに行けるアイドルである。48グループの握手会つきCDが100万枚を超えて売れるこのご時世、アイドル戦国時代も多様化しているが、やっぱりキャストを間近で見られる、会いに行けるという市場は大人気だ。しかも、「舞台でキャラクターを演じている俳優さんのファンイベント」ではなく「キャラクターとグリーティングできる」のである。
キャラクターがライブに実在するという図式は、うたプリラブライブ!の声優がライブイベントを行うのもそれに近い。さいたまスーパーアリーナとか横浜アリーナの会場では全然チケットが取れず、ライビュをしてもなお激戦という人気の白熱具合を思えば、まさに流行の渦中にあるコンテンツだ。

 

ヴィランズの手下は、今はやりの「2.5次元舞台」と「会いに行けるアイドル」をドッキングしたコンテンツをSNSで客個人が映像をリアルタイム(数か月後のDVD発売ではなくその日とか数日以内)に配信して拡散するというまさに時代を反映しまくったイベントだった。なんかもう、時代を見た!と思った。しかもキャストは毎日全員が出演するわけではなく日替わりで誰がいるかわからないガチャ方式なのでリピーターも多く、ハロウィンの期間限定というのがなおのこと熱を煽り、イベント終了間際の10月終わりのセイリングブッフェ待ち時間は歴代記録に残るほどにまでなったそうだ。わたしがインした10月半ばは6時間待ちだったが、8時間待ったとか10時間待ち表示だったとかいう話を見かけた。
もちろん人気の理由はこうした仕掛けやツールだけではなくて、キャラクターの設定やキャストさんのアドリブが魅力的だったからだと思うし自分もそれにまんまとハマった口なのだけど、ちょうど時代に見合ったエンターテイメントがヒットしたというのは見事だった。客のマナーや人が集まりすぎて起きた問題を鑑みてもここまでの事態はパーク側も予想外だったのかもしれないが、これをどう受け取ってどう対処するかは来年のハロウィンに活かされるのであろう。
何をすれば人気が出るのか、人が集まる市場というのはどこで生まれるのか、2015年現在のエンターテイメントを見つめるには象徴的なブームだったと思う。